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心拡大を認めた子犬の動脈管開存症に対して動脈管結紮術を行った1例

■ 症例紹介

犬種:ポメラニアン
年齢:4か月
性別:雄
体重:1.4 kg
主訴:心雑音の精査

本症例は、心雑音を指摘され、精査を目的に当院を受診しました。

聴診では心基底部を最強点とする連続性心雑音を認め、心臓超音波検査では大動脈から肺動脈へ流れる短絡血流が確認されました。

これらの所見から、動脈管開存症(Patent Ductus Arteriosus:PDA)と診断しました。

また、胸部X線検査では心拡大を認め、心臓超音波検査では、

・LA/Ao:1.25
・LVIDDn:2.13

と、特に左心室の著しい拡大を認めました。

まだ生後4か月、体重2 kgの子犬でしたが、すでにPDAによる心臓への大きな容量負荷が生じている状態と判断しました。

[術前X線画像]

 

[術前心エコー画像]

■ 動脈管開存症(PDA)とは?

動脈管は、胎児期に大動脈と肺動脈をつないでいる血管です。

通常は出生後に自然に閉鎖しますが、閉鎖せずに残ってしまう病気を動脈管開存症(PDA)といいます。

PDAでは、多くの場合、大動脈から肺動脈へ血液が流れ続けることで肺への血流量が増加し、左房や左室に過剰な負担がかかります。

その状態が続くと徐々に心臓が拡大し、若齢であっても肺水腫などの心不全を発症することがあります。

一方で、適切な時期に動脈管を閉鎖することができれば、根治が期待できる先天性心疾患でもあります。

そのため、症状がない子犬であっても、PDAが確認された場合には心臓の状態を評価し、適切なタイミングで治療することが重要です。

■ PDAの治療 ― カテーテル治療と外科治療

PDAを閉鎖する方法には、大きく分けてカテーテル治療外科治療があります。

カテーテル治療では、血管からカテーテルを挿入し、コイルやACDO(Amplatz Canine Duct Occluder)などのデバイスを用いて動脈管を閉鎖します。

開胸を必要としないため身体への負担が比較的小さく、現在ではPDAに対する重要な治療選択肢となっています。

しかし、すべての症例でカテーテル治療ができるわけではありません。

特に体の小さな子犬では、カテーテルを挿入する血管の太さや使用できるデバイスのサイズなどから、治療が難しい場合があります。

本症例はまだ生後4か月、体重1.4 kgと非常に小さく、カテーテル治療が困難となる可能性がありました。

成長を待ってからカテーテル治療を行うことも選択肢の一つですが、本症例ではすでにLVIDDn 2.13と著しい左室拡大を認めていました。

このまま治療を待つことで、さらに心拡大が進行し、心不全を発症することが懸念されました。

そのため、できるだけ早期にPDAを閉鎖する必要があると判断し、開胸下での動脈管結紮術を選択しました。

■ 手術

本症例では、左胸部から開胸し、動脈管結紮術を実施しました。

体重1.4 kgと非常に小さな子犬であり、実際の術野は指1本が入るかどうかというほどの大きさです。この限られた術野の中で、大動脈と肺動脈をつなぐ動脈管を確認し、周囲の血管や神経を傷つけないよう慎重に剥離を行いました。

その後、動脈管に2本の糸を通し、循環動態を確認しながら慎重に結紮しました。結紮後には動脈管を通る血流が遮断されたことを確認し、手術を終了しました。

① 動脈管結紮前
大動脈と肺動脈の間にある動脈管を確認します。

[結紮前の手術画像]

② 動脈管の結紮
指と比較すると、実際の術野が非常に小さいことが分かります。指1本が入るかどうかという限られたスペースの中で、動脈管を慎重に結紮していきます。

[結紮中の手術画像]

③ 動脈管結紮後
動脈管を結紮し、異常な血流が遮断されたことを確認します。

[結紮後の手術画像]

■ 術後経過

術後の心臓超音波検査では、動脈管を通る遺残短絡は認められませんでした。

その後も活動性、食欲ともに良好に経過し、術後3か月の検診では、

・LA/Ao:1.32
・LVIDDn:1.45

まで改善しました。

術前にはLVIDDn 2.13と著しく拡大していた左心室は正常範囲まで縮小し、左房・左室ともに明らかな心拡大は認められなくなりました。

また、聴診上も心雑音は認められず、心臓超音波検査でも動脈管の遺残短絡は確認されませんでした。

術前:LVIDDn 2.13
→ 術後3か月:LVIDDn 1.45

と、PDAを閉鎖したことで心臓にかかっていた容量負荷が大きく改善したことが確認されました。

[術前・術後X線比較]

[術前・術後心エコー比較]

現在は3歳5か月となりましたが、心臓に起因する症状はなく、元気に過ごしています。

■ PDAの予後について

PDAは、生まれつき存在する心臓病のひとつです。

症状がないまま経過する症例もありますが、短絡量が多い場合には左房・左室への容量負荷が続き、若いうちから心拡大や肺水腫などの心不全へ進行する可能性があります。

その一方で、心不全や重度の肺高血圧症などが生じる前に適切に動脈管を閉鎖できれば、良好な長期予後が期待できます。

「まだ子犬だから」「症状がないから」と治療を待つのではなく、心臓の大きさや短絡の程度、体重などを総合的に評価し、その症例に適した治療時期と治療方法を検討することが重要です。

■ まとめ

動脈管開存症(PDA)は、早期に発見し適切に治療することで、根治が期待できる先天性心疾患です。

治療にはカテーテル治療と外科治療があり、体重や動脈管の形態、心臓への負担などによって適した治療方法は異なります。

本症例では体重1.4 kgと非常に小さかった一方、すでに著しい左室拡大を認めていたため、成長を待たずに外科的な動脈管結紮術を実施しました。

その結果、術後には心拡大が正常範囲まで改善し、現在3歳5か月となった今も良好な状態を維持しています。

「子犬の健康診断で心雑音を指摘された」
「PDAと診断されたが、どの治療方法がよいのかわからない」
「体が小さく、カテーテル治療が難しいと言われた」

このような場合でも、症例によって治療の選択肢は異なります。

当院では、カテーテル治療と外科治療の両面から、それぞれの症例に合わせた最適な治療方針をご提案しています。

まずはお気軽にご相談ください。