■ 症例紹介
犬種:チワワ
主訴:呼吸状態の悪化
呼吸状態の悪化を認めたため救急動物病院へ向かっていたところ、突然倒れて意識を失いました。
救急動物病院では心膜液貯留が確認され、心膜穿刺による治療が実施されました。心膜液は血液性であり、重度僧帽弁閉鎖不全症に伴う左房破裂が疑われました。
その後は内科治療により一時的に状態は安定していましたが、再び肺水腫を発症したため、今後の治療方針について相談する目的で当院を受診しました。
胸部X線検査では心拡大と肺水腫が認められ、心エコー検査では重度の僧帽弁逆流と著しい左心房・左心室拡大が確認されました。
・LA/Ao:1.97(正常:1.6以下)
・LVIDDn:2.53(正常:1.7以下)
また、これまでの経過や術中所見から、重度僧帽弁閉鎖不全症に伴う左房破裂を生じていた可能性が高いと考えられました。
【術前胸部X線画像】


【術前心エコー画像】


■ 左房破裂とは?
左房破裂とは、重度の僧帽弁閉鎖不全症でみられる重篤な合併症の一つです。
逆流した血液によって左心房に強い負担がかかることで左心房壁が裂け、心臓の周囲に出血が起こります。
突然倒れて意識を失ったり、呼吸状態が急激に悪化したりすることがあり、緊急治療が必要となる場合があります。
本症例でも、夜間救急動物病院で心膜液貯留が確認されており、その後の経過や術中所見から左房破裂を生じていた可能性が高いと考えられました。
■ 治療方針
・肺水腫を繰り返していたこと
・左房破裂を生じていたこと
・重度の心拡大を認めたこと
から、内科治療のみで長期的に安定した状態を維持することは困難と判断しました。
そのため、根本治療を目的として僧帽弁形成術を実施しました。
■ 手術
人工心肺下で僧帽弁形成術を実施しました。
人工腱索再建:10本
弁輪縫縮
術中には左心房表面に線維化した領域が確認され、過去に左房破裂を生じていたことが示唆されました。
手術後の逆流テストでは逆流の消失を確認し、人工心肺からも安定して離脱することができました。
■ 術後経過
術後経過は良好で、大きな合併症は認められませんでした。
術後1か月では、
・LA/Ao:1.29
・LVIDDn:1.62
まで改善し、僧帽弁逆流は消失しました。
また、肺水腫の再発は認められず、咳や呼吸状態も改善しました。
【術後胸部X線画像】


【術後心エコー画像】


退院後は活動性や食欲も良好であり、安定した状態を維持しています。
■ まとめ
重度の僧帽弁閉鎖不全症では、肺水腫だけでなく左房破裂のような重篤な合併症を生じることがあります。
一方で、そのような重症例であっても、全身状態や併発疾患を慎重に評価したうえで外科治療を行うことで、良好な経過が得られる場合があります。
「肺水腫を繰り返している」
「左房破裂により生存が困難と診断された」
「心臓病がかなり進行していると言われた」
「手術ができるか相談したい」
そのような場合には、一度循環器診療をご相談ください。
当院では、内科治療と外科治療の両面から、それぞれの症例に合わせた最適な治療方針をご提案しています。
