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咳を主訴とした重度僧帽弁閉鎖不全症に対して心臓手術を行った1例

■ 症例紹介

犬種:チワワ
年齢:10歳11ヶ月
性別:去勢雄
主訴:咳

以前から心臓病による咳が続いており、今後の治療方針について相談するため来院されました。

心臓超音波検査では、重度の僧帽弁逆流が認められました。

・LA/Ao:2.04(正常:1.6以下)
・LVIDDN:2.21(正常:1.7以下)

と、左房・左室ともに高度な拡大を認めました。

 

これまで呼吸困難や肺水腫を発症したことはなく、ACVIM Stage B2と診断しました。しかし、心臓超音波検査をはじめとした各種検査の結果から、今後心不全(肺水腫)を発症するリスクは極めて高い状態であると判断しました。

 

ACVIM Stage B2は、まだ肺水腫を発症していない段階ではありますが、病態が進行すると咳症状の悪化や呼吸困難、肺水腫へ進行する可能性があります。

特に、心拡大が進行した症例では、左房拡大による気管支への圧迫などから、慢性的な咳症状がみられることがあります。

 

すでに複数の薬剤による内科治療が行われていましたが、今後内科治療のみで長期的に安定した状態を維持することは難しいと判断し、外科的治療(僧帽弁形成術)を選択しました。

 

■ 手術

人工心肺下で僧帽弁形成術を実施しました。

僧帽弁は広範囲で逸脱しており、人工腱索を9本再建しました。また、大きく拡大していた僧帽弁輪を縫縮し、弁の接合を再建しました。

手術後の逆流テストでは、僧帽弁逆流は軽微まで改善し、人工心肺からも安定して離脱することができました。

■ 術後経過

術後経過は良好で、大きな合併症は認められませんでした。

術後は約14日間の入院管理を行い、全身状態が安定したことを確認したうえで退院となりました。

 

当院では、僧帽弁形成術後は2週間程度の入院期間を推奨しています。
一般的にはやや長い入院期間となりますが、この手術では術後1週間〜10日程度で容体が悪化し、重篤な合併症を引き起こす可能性もあるため、慎重な管理を目的として長めの入院期間を設定しています。

 

術後1ヶ月検診では、

・LA/Ao:1.33
・LVIDDN:1.53

まで改善しており、咳症状は消失しました。

飼い主様からは、

「以前より元気に走り回るようになった」

とのお話もあり、活動性の改善が確認されました。

 

さらに、術後3ヶ月では、

・LA/Ao:1.04(正常範囲)
・LVIDDN:1.49(正常範囲)

まで改善し、左房・左室拡大は消失しました。

 

術後6ヶ月時点でも、

・LA/Ao:1.03
・LVIDDN:1.48

と良好な状態を維持しており、内服薬はすべて中止となっています。

 

術後1年検診を終えた現在も、咳や呼吸困難などの症状は認められず、安定した状態を維持しています。

■ まとめ

僧帽弁閉鎖不全症では、「肺水腫を起こしていないから安心」というわけではありません。

重度の僧帽弁逆流や高度な心拡大を伴う症例では、慢性的な咳症状や運動耐性の低下がみられることがあり、今後肺水腫へ進行するリスクも高くなります。

本症例のように、肺水腫を発症する前の段階で外科治療を実施することで、心臓サイズの改善だけでなく、咳症状や生活の質(QOL)の改善につながる場合があります。

当院では、内科治療と外科治療の両面から、それぞれの症例に合わせた最適な治療方針をご提案しています。

まずはお気軽にご相談ください。