本症例は、徐脈および呼吸促迫に対する精査加療を目的に来院しました。
検査の結果、3度房室ブロックに伴う重度徐脈が認められ、徐脈に起因するうっ血性心不全が疑われたため、ペースメーカー植込み術を実施しました。
■ 症例紹介
犬種:イングリッシュ・コッカー・スパニエル
年齢:12歳
性別:去勢雄
体重:9.5 kg
主訴:徐脈、呼吸促迫
本症例は、咳嗽頻度の増加と呼吸促迫を主訴に紹介元病院を受診し、うっ血性心不全が疑われていました。利尿剤を含む内科治療が行われましたが、呼吸状態の十分な改善が得られず、精査加療を目的に当院へ来院しました。
■ 来院時の状態
来院時、著しい徐脈と呼吸促迫が認められました。
心電図検査では、P波とQRS群に関連を認めず、心室レートは35 bpmでした。PP間隔およびRR間隔はいずれも一定であり、3度房室ブロックと診断しました。

3度房室ブロックは、心房から心室へ電気信号が伝わらなくなる不整脈です。
心室は非常に遅い補充調律で拍動するため、心拍出量が低下し、失神、虚脱、運動不耐性などを引き起こすことがあります。
本症例では、重度徐脈に加えて呼吸促迫と肺野の不透過性亢進が認められたため、徐脈に起因するうっ血性心不全が疑われました。
■ 検査所見
胸部X線検査では、椎骨心臓サイズ(VHS) 11.8 椎体と心拡大を認め、肺後葉を中心にびまん性の不透過性亢進像が確認されました。

心臓超音波検査では、僧帽弁尖の明らかな変性や逸脱所見は認められませんでした。一方で、左心房および左心室の拡大が認められ、左心房/大動脈比(LA/Ao)は1.95(正常値:1.6未満)、標準化左室拡張末期径(LVIDDn)は1.75(正常値:1.7未満)でした。
また、心拡大に伴う機能性僧帽弁逆流が認められました。
以上より、弁膜症や心筋症を主因とする心不全ではなく、3度房室ブロックによる高度徐脈がうっ血性心不全の発症に関与している可能性が高いと判断しました。
■ 治療方針
本症例では、利尿剤による体液量管理だけでは十分な改善が得られていませんでした。
3度房室ブロックでは、薬剤によって一時的に心拍数を補助できる場合もありますが、根本的な治療にはなりません。
そのため、心拍数を安定させる恒久的な治療として、ペースメーカー植込み術を実施しました。
なお、治療前の段階で「徐脈がうっ血性心不全の主因である」と完全に断定することは困難でした。
しかし、高度徐脈によって循環動態が破綻している可能性が高く、心拍数の是正が必要と判断しました。
■ 手術
左第5肋間を開胸し、左心室後壁へ心外膜リードを縫着しました。
ジェネレーターは左側腹壁皮下へ埋没しました。
術中、安定したペーシングが得られることを確認し、ペーシングレートは120 bpmに設定しました。

■ 術後経過
術後翌日には呼吸状態の改善が認められました。

術後22日目の胸部X線検査では、VHSは11.8椎体から11.0椎体へ改善しました。
心臓超音波検査でも心拡大の改善が認められ、LA/Aoは1.95から1.45へ、LVIDDnは1.75から1.39へ改善しました。
■ まとめ
3度房室ブロックは、失神や虚脱だけでなく、うっ血性心不全を引き起こすことがあります。
本症例では、利尿剤による体液量管理だけでは十分な改善が得られませんでしたが、ペースメーカー植込み術により心拍数が是正され、呼吸状態、肺野所見、心拡大の改善が認められました。
高度徐脈とうっ血性心不全が併存する場合、単に利尿剤を増量するだけではなく、心拍数の是正が本質的な治療となることがあります。
当院では、不整脈の診断、ペースメーカー植込み術、術後のペースメーカーチェックまで対応しています。
徐脈、失神、呼吸促迫、原因不明の心不全でお困りの場合はご相談ください。
